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草枕塵はらひにはからころも
たもとゆたかに裁つを待てかし

歌の意味
草枕の塵を払うには、唐衣の袂をゆったりと裁つのを待っていてほしい。
鑑賞
140 草枕の塵

 今は亡き兵部卿の宮が、昇大納言の娘のもとに通っていたころ、いつもの寝床ではなく廂の間に仮の寝床を設けて、そこで一夜を共にして帰られた後、しばらく訪れないで、あの廂の間に敷いた寝床はそのままありますか、それとも片づけてしまいましたか、と尋ねてきたので、その返事に「敷きかへずありしながらに草枕塵のみぞゐるはらふ人なみ」とあった。すると返歌に「草枕塵はらひにはからころもたもとゆたかに裁つを待てかし」とあったので、また女から「からころも裁つを待つ間のほどこそは我がしきたへの塵もつもらめ」と返されたので、宮は女のもとにやって来たのだった。また別のとき、宇治に狩りをしに行くという宮への返事として「み狩する栗駒山の鹿よりもひとり寝る身ぞわびしかりける」とあった。以上が段の全体である。
 兵部卿の宮は九十段、百六段、百七段、百三十七段、百三十九段にも登場する。昇大納言は源昇で、大納言を務めた人である。詠み手はその娘にあたる。廂の間は母屋の外側にめぐらされた部屋である。
 場面は同じく、女から返事が届いたところである。
 詠出の直接の契機は、女から届いた「敷きかへずありしながらに草枕塵のみぞゐるはらふ人なみ」である。払う人がいないという訴えに応じている。
 女はこれに再び返しを詠み、それによって宮は実際にやって来ることになる。

 初句の「草枕」は、相手の語をそのまま受け取っている。同じ語から歌を起こす形で、贈答として整っている。
 「塵はらひには」は、塵を払うには、の意である。払う人がいないという訴えを受けて、その払う手立てを述べる形になる。
 「からころもたもとゆたかに裁つ」は、唐衣の袂をゆったりと裁つ、の意である。袂で塵を払うという発想に立つ。「裁つ」は衣を仕立てることをいう。
 結句の「待てかし」は、待っていてほしい、という命令である。「かし」が念を押す。訪ねると約束せず、衣を仕立てるまで待てと答えており、来ない理由を新たに作る形になっている。それが次の返歌で突かれる。

草枕——旅寝の枕。ここでは仮の寝床。
塵(ちり)——塵。ほこり。
はらふ(四段動詞)——払う。取り除く。
からころも——唐風の衣。
たもと——袖の袋状になった部分。
ゆたかなり(形容動詞)——ゆったりしている。
裁つ(四段動詞)——布を裁って衣を仕立てる。
かし——〜よ。念を押す終助詞。
出典
大和物語
その他の歌