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みな人のその香にめづるふぢばかま
君のみためと手折りたる今日

歌の意味
誰もがその香りを賞美する藤袴を、あなたおひとりのためにと手折った今日であることだ。
鑑賞
153 藤袴

 奈良の帝が在位していたころは、嵯峨の帝はまだ皇太子であったが、あるとき奈良の帝に「みな人のその香にめづるふぢばかま君のみためと手折りたる今日」と差し上げた。奈良の帝の返しに「折る人の心にかよふふぢばかまむべ色ことににほひたりけり」とあった。以上が段の全体である。
 奈良の帝は平城天皇、嵯峨の帝は嵯峨天皇である。二人は兄弟にあたる。藤袴は秋の七草の一つで、香りによって賞美される草である。
 場面は、嵯峨の帝がまだ皇太子であったころである。藤袴が咲いていることから、秋のことと知れる。
 詠出の直接の契機は、その藤袴を手折ったことである。歌は花に添えて奈良の帝に差し上げられた。
 帝はこれに返しを詠み、贈答をもって段は閉じられる。

 「みな人のその香にめづる」は、誰もがその香りを賞美する、の意である。藤袴が広く愛される花であることを、まず置く。
 「ふぢばかま」は秋の七草の一つで、乾かすと香りが立つ草である。「袴」の字を含み、衣に通う名を持つ。
 「君のみためと」の「のみ」が限定を表す。皆が愛する花を、あなたひとりのために、という筋になる。多くの人と一人とを対に置く組み立てである。
 結句の「手折りたる今日」は体言止めで、折った日を名指したまま終わる。花を贈るにあたって、その花が誰にでも愛されるものであることを述べたうえで、それでもあなたのためだと限る形になっており、贈り物と歌が一つに働く。

奈良の帝——平城天皇。
嵯峨の帝——嵯峨天皇。平城天皇の弟。
めづ(下二段動詞)——賞美する。愛でる。
ふぢばかま——藤袴。秋の七草の一つ。香りで賞美される。
のみ——〜だけ。限定を表す。
み——尊敬を表す接頭語。
手折る(四段動詞)——手で折り取る。
出典
大和物語
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