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雲鳥のあやの色をもおもほえず
人をあひ見で年の経ぬれば

歌の意味
雲鳥の綾の色も思い浮かばない。あなたに逢わないまま年が経ってしまったので。
鑑賞
159 雲鳥のあや

 染殿の内侍と呼ばれた女性がいた。それに源能有が時々通っていた。器用な女性だったので衣服の仕立てを頼んだりしていたが、あるとき模様の多くある絹織物を多く持って行くと、女が、雲と鶴の柄にしましょうか、と尋ねる。しかし男は答えないので、仕えることもできませんよ、ちゃんと命じてくださらないと、と女が言うと、源能有はこの歌を答えたという。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
 源能有は文徳天皇の第一皇子で、母の身分により臣籍に降下した人である。染殿の内侍は染殿にちなむ呼び名を持つ女官で、続く百六十段にも登場する。内侍は内侍司に属する女官である。
 場面は染殿の内侍のもとである。仕立てを頼むために絹織物を持って行ったところにあたる。
 詠出の直接の契機は、雲と鶴の柄にしましょうか、という女の問いと、ちゃんと命じてくださらないと、という言葉である。
 段はこの一首で終わり、女の反応も後日のことも語られない。この歌は続後拾遺集に収められている。

 「雲鳥のあや」は、雲と鳥の模様を織り出した綾織物である。女が尋ねた柄の名を、そのまま初句に置いている。
 「色をもおもほえず」は、色も思い浮かばない、の意である。何色にするか決められない、という答えになる。
 「人をあひ見で」は、あなたに逢わないで、の意である。「で」が打消の接続である。
 結句の「年の経ぬれば」は、年が経ってしまったので、と理由を示す。長く逢わずにいるので色の見当もつかない、という筋である。柄や色を問われて、逢っていないことを理由に挙げる形になっており、仕立ての相談を、そのまま久しく訪れなかったことの言い訳に転じている。実用のやりとりが歌になる例で、二十二段の太刀の革や百九段の牛の歌と同じ系統にあたる。

染殿(そめどの)の内侍(ないし)——染殿にちなむ呼び名を持つ女官。
内侍——内侍司に属する女官。
源能有(みなもとのよしあり)——文徳天皇の第一皇子。臣籍に降下した。
雲鳥のあや——雲と鳥の模様を織り出した綾織物。
おもほゆ(下二段動詞)——自然と思われる。思い浮かぶ。
あひ見る(上一段動詞)——逢う。対面する。
で——〜しないで。打消の接続。
ぬれば——〜てしまったので。理由を表す。
出典
大和物語
その他の歌