忘れ草生ふる野辺とは見るらめど
こは忍ぶなりのちも頼まん
- 歌の意味
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忘れ草の生える野辺とご覧になるでしょうが、これは忍ぶ草なのです。後々も頼みに思いましょう。
- 鑑賞
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162 忘れ草
また在中将が内裏に伺候していたときに、御息所の御方から忘れ草を、これは何というのか、といって賜わったので、中将がこの歌を詠んだ。同じ草を忍ぶ草とも忘れ草ともいうので、それによって詠んだのである、と地の文は結ぶ。
在中将は在原業平で、前の百六十一段では二条の后宮と歌をやりとりしている。御息所については、御息所の御方という以外、地の文に記載がない。忘れ草は萱草の別名で、身につけると物思いを忘れるとされた。忍ぶ草はしのぶぐさで、同じ草の別名とされる。
場面は内裏である。業平が伺候していたところへ、御息所の御方から草が下された。
詠出の直接の契機は、これは何という草か、という問いである。名を答えることが、そのまま歌になっている。
段はこの一首と、同じ草を二つの名で呼ぶという説明で閉じられる。
「忘れ草生ふる野辺とは見るらめど」は、忘れ草の生える野辺とご覧になるでしょうが、の意である。相手が下した草を、そう見ているだろうと受ける。
「らめど」の逆接が、それにもかかわらず、と下へつなぐ。
「こは忍ぶなり」は、これは忍ぶ草なのです、の意である。同じ草に二つの名があることを踏まえ、忘れるほうではなく忍ぶほうの名を選び取っている。「しのぶ」は、こらえる、思い慕う、の意も兼ねる。
結句の「のちも頼まん」は、後々も頼みに思いましょう、の意である。忘れ草を下されて、忘れよという意と受け取ることもできる場面で、それを忍ぶ草と読み替え、これからも頼みにすると答える形になっている。草の名一つで意味を反転させた一首である。
在中将(ざいちゅうじょう)——在原業平のこと。
内裏(うち)——宮中。
御息所(みやすんどころ)——天皇の寵を受けた女性の呼び名。
忘れ草——萱草の別名。身につけると物思いを忘れるとされた。
忍ぶ草——同じ草の別名とされる。「忍ぶ」は「こらえる」「思い慕う」の意も兼ねる。
野辺(のべ)——野原。
らめど——〜だろうけれども。
たのむ(四段動詞)——頼みに思う。あてにする。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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