植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ
花こそ散らめ根さへ枯れめや
- 歌の意味
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きちんと植えたなら、秋のない時にこそ咲かないだろう。花は散るとしても、根まで枯れることがあろうか。
- 鑑賞
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163 秋なき時
在中将に、后の宮から菊をご所望なさったので、差し上げたついでに、この歌を書きつけて奉ったのである。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
在中将は在原業平で、百六十一段では二条の后宮と歌をやりとりし、百六十二段では御息所から忘れ草を賜わっている。后の宮は皇后である。菊は秋に咲く花で、長寿を祝う花としても詠まれた。
場面は、后の宮から菊をご所望になったところである。菊が話題になっていることから、秋のことと知れる。
詠出の直接の契機は、その菊を差し上げることである。歌はその菊に書きつけて添えられた。
段はこの一首で終わり、后の宮の反応も後日のことも語られない。
「植ゑし植ゑば」は、しっかりと植えたなら、の意である。同じ語を重ねて、念を入れて植えることを表す。
「秋なき時や咲かざらむ」は、秋のない時にこそ咲かないだろう、の意である。「あき」に、秋と、飽きとが響く。菊が咲くには秋が要るという事実と、飽きられれば咲かないという含みとが重なる。
「花こそ散らめ」の「こそ〜め」は、花は散るとしても、と譲る形を作る。
結句の「根さへ枯れめや」は反語で、根まで枯れることがあろうか、いや枯れない、と言う。「かれ」に、枯れることと、離れることとが掛かる。花が散っても根は残るという理屈で、飽きられて表向きの縁が絶えても心の根は絶えない、と述べていることになる。献上の品に添える歌でありながら、恋の言葉づかいで通している。
在中将(ざいちゅうじょう)——在原業平のこと。
后の宮——皇后。
召す(四段動詞)——お求めになる。ご所望になる。
植ゑし植ゑば——しっかりと植えたなら。
あき——「秋」と「飽き」とを響かせる。
こそ〜め——係り結び。譲歩を表す。
さへ——〜までも。添加を表す。
かる——「枯る」と「離る」との掛詞。
めや——〜だろうか、いや〜ない。反語を表す。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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