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かづきするあまのすみかをそことだに
ゆめいふなとやめを食はせけむ

歌の意味
水にもぐる海人の住みかのような私の家を、どこそこと、決して言ってくれるなという合図のつもりで、あの海藻を食べさせたのだろう。
鑑賞
84 里にまかでたるに

 里に退出していると、殿上人などが訪ねてくるのを人々がとやかく噂するという。作者は、堅く引きこもっているという評判があるわけでもないのだからそう言われても仕方がないと考え、昼も夜も来る人を居留守で追い返すこともしない。とはいえあまりに煩わしいので、このたびの居場所は一般には知らせず、左中将経房の君や斉政の君などだけが知っている。そこへ左衛門の尉則光が来て、昨日、宰相の中将が参上して、妹の居所を知らぬはずはあるまい、言え、とひどく問い詰められたと語る。知らないと申しあげたが意地悪く責められて、笑い出しそうになり、困りきって台盤の上にあった布を取ってひたすら口に押しこみ、そのおかげで居所を言わずにすんだ、という顛末である。作者は決して申しあげてくれるなと念を押す。
 その後、夜も更けてから門を仰々しくたたく者があり、瀧口の武士が則光の手紙を持ってくる。明日は御読経の結願で宰相の中将が物忌にこもっており、居所を申せ申せと責められて隠しきれない、どうすればよいか仰せに従う、という内容だった。作者は返事を書かず、布を一寸ばかり紙に包んで持たせてやった。
 則光は橘則光で、宮中では作者の兄と呼びならわされていた。宰相の中将は藤原斉信、左中将経房は源経房である。
 時は作者が里に退出している間のことで、場所は作者の里の家である。
 のちに則光が来て、あちこち引き回されて本気で責められてつらかった、それにしてもなぜ返事もくれずに他愛のない布の端など包んでよこしたのか、妙な贈り物だ、取り違えたのか、と言った。海藻の「め」に「言うな」の合図をこめたことがまるで通じていないと知って癪にさわり、作者は物も言わずに硯にある紙の端にこの歌を書いて差し出した。
 則光はそれを見るなり、歌をお詠みになったのか、決して拝見しません、と言って、扇であおぎ返すようにして逃げていってしまった。歌を厭う則光の性分は、次に置かれる「くづれよる妹背の山の中なれば さらに吉野の川とだに見じ」の場面へそのままつながっていく。

 初句「かづきする」は水にもぐって海藻や貝を採る意で、次の「あま」を導く。「あま」は海人であると同時に、隠れ住む我が身の見立てでもあり、居所を知らせぬ暮らしを海に潜む者の姿に重ねている。第三句「そことだに」の「だに」は、せめて…だけでもの意で、そこだとだけでも言うな、と最小限すら禁じる働きをする。
 第四句「ゆめいふなとや」の「ゆめ」は、下に禁止を伴って、決して…するなと強く戒める副詞である。「とや」は、と言うつもりでか、と受けて、結句へ疑いを残したままつなぐ。結句「めを食はせけむ」の「め」が眼目で、海藻の「布(め)」と「目」とが掛けられている。目くばせをする意の「目を食はす」という言い回しに、実際に海藻を食べさせたという出来事を重ねたのであり、歌の全体が、あのとき布を口に押しこんで居所を言わずにすませたという則光自身の手柄話を、そのまま合図の由来として説明し直す形になっている。「けむ」は過去の推量で、そういうつもりだったのだろう、と自分の行為をあえて他人事のように突き放し、通じなかった相手への軽い皮肉を含ませている。

まかづ:貴人のもとから退出する。ここでは宮中から自邸に下がること
かづきす:水にもぐって貝や海藻をとる
あま:海人。海に潜って漁をする者
だに:せめて…だけでも
ゆめ:下に禁止の語を伴って、決して…するな
とや:…と言うつもりでか
め:海藻の「布(め)」と「目」との掛詞
けむ:過去の事柄を推量する助動詞
瀧口(たきぐち):清涼殿の東北にあった詰所、またそこに詰める警護の武士
左衛門の尉:左衛門府の三等官
宰相の中将:参議を兼ねる近衛中将
作者
清少納言
出典
枕草子
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