山とよむ斧の響きを尋ぬれば
いはひの杖の音にぞありける
- 歌の意味
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山を鳴りとどろかせる斧の響きは何かとたずねてみると、それはほかならぬ祝いの杖の音であった。
- 鑑賞
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87 職の御曹司におはします頃、西の廂にて
師走の十日あまりに降った雪で庭に高い雪の山が作られ、いつまで残るかをめぐって作者は正月の十日過ぎまではあると言い張り、女房たちは年内も持つまいと言う。二十日ごろの雨にも消えず、白山の観音よ消えさせなさるなと祈るほどに作者は入れこんでいる。雪の山は平然として年を越し、元日の夜にまた雪が多く降ったのを、うれしくも積もったと見ていると、中宮は、それはいけない、初めの分だけを残して今の分はかき捨てよと仰せられた。
翌朝たいそう早く局へ下がると、侍の長である者が、柚の葉のような濃い緑の宿直衣の袖の上に、松につけた青い紙を置いて、寒さに震えながら出てきた。どこからかと問うと斎院からだと言うので、作者はふとめでたく思われて受け取り、中宮のもとへ持って参上する。
斎院は賀茂の斎王で、勅使として下向する未婚の内親王または女王が務めた。中宮は一条天皇の中宮定子である。
時は正月二日の朝、場所は職の御曹司である。
中宮はまだ御就寝中だったので、作者は御帳台に面した御格子を碁盤などを引き寄せて一人で押し上げようとし、重くてきしむ音に中宮が目を覚まされる。斎院からのお手紙がございますのにどうして急がずにいられましょうと申しあげると、なるほど早い便りだと言ってお起きになった。開けてみると、五寸ばかりの卯槌が二本、卯杖のように頭を紙に包み、山橘
日陰の蔓
山菅などをかわいらしく飾りつけてあって、手紙はない。何もないはずはあるまいとよくご覧になると、卯杖の頭を包んだ小さい紙にこの歌が書かれていた。
中宮がお返事をお書きになる様子もたいそう見事であった。斎院とのやりとりは、差しあげる場合もお返しの場合もことに念入りで、何度も書き直された跡に心づかいが見えると作者は記す。使いには白い織物の単と蘇枋襲が与えられ、雪の降りしきる中を肩に掛けて帰るさまも美しく見えた。ただ、その折の中宮の御返歌を知らずに終わったことが残念だ、と結ばれている。
初句「山とよむ」は山を鳴りとどろかせるの意で、「とよむ」は音が響きわたることをいう動詞である。第二句「斧の響きを」で、山中に木を伐る音が鳴りわたっている情景が示される。第三句「尋ぬれば」は已然形に「ば」がついた順接の確定条件で、たずねてみるとの意。ここまでで、何の音かをたどっていくという筋道が立てられる。
第四句「いはひの杖の」で答えが明かされる。いはひの杖は卯杖の別名で、正月の初卯の日に邪気を払うために献じられる杖である。山で斧が鳴っていたのは、その杖の材を伐り出す音であったという運びであり、山の奥深くから正月の儀式へと視点が一気に手前へ引き寄せられる。
結句「音にぞありける」の「ぞ」は係助詞で、結びの「ける」を連体形に導く係り結びをなす。「ける」は気づきの詠嘆をあらわし、たずねてみればほかならぬこれであったのだ、という納得の呼吸を作る。贈り物である卯槌
卯杖そのものを歌に詠みこみ、包み紙に書きつけることで、品物と歌とが一体になっている点にこの一首の趣向がある。
同じ段には「ここにのみめづらしとみる雪の山所々にふりにけるかな」「うらやまし足もひかれずわたつ海のいかなる人にもの賜ふらむ」が置かれるが、この歌だけは外部から届いた改まった贈答歌であり、雪の山をめぐる私的な騒ぎの中に、正月の格式ある一場面を差しはさむ働きをしている。
とよむ:鳴りとどろく。音が響きわたる
尋ぬ:たずね求める。さぐる
いはひの杖:卯杖の別名。正月の初卯の日に邪気を払うために献上する杖
卯槌(うづち):正月の初卯の日に飾る、桃の木などで作った槌
ぞ…ける:係助詞「ぞ」による係り結び。結びは連体形
けり:今はじめて気づいたという詠嘆をあらわす助動詞
斎院:賀茂神社に奉仕する未婚の内親王
女王、またその御所
山橘(やまたちばな):やぶこうじ
日陰の蔓(ひかげのかづら):祭事の飾りに用いる蔓草
蘇枋(すはう):黒みを帯びた赤色。襲の色目の名
御帳台(みちゃうだい):貴人の寝所として設ける台
御格子(みかうし):格子の戸
- 出典
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枕草子
- その他の歌
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