あかねさす日に向かひても思ひ出でよ
都は晴れぬながめすらむと
- 歌の意味
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日に向かうという日向の国へ行っても思い出してほしい。都では晴れることのない長雨が降り、私は物思いに沈んでいるだろうと。
- 鑑賞
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240 御乳母の大輔の命婦
御乳母の大輔の命婦が日向へ下るときに、中宮が下賜なさった扇の中に、片面には日がのどかに射している田舎の館などが多く描いてあり、もう片面には京のしかるべき所に雨がひどく降っている絵が描いてあった。そしてそこに、中宮御自筆でこの歌が書かれていた。
大輔の命婦は御乳母として仕えた女性で、命婦は宮中に仕える女官の称である。中宮は一条天皇の中宮定子である。
時は大輔の命婦が任地の日向国へ下向する折、場所は中宮の御在所である。
乳母が遠国へ下るにあたって餞別の扇を賜り、その扇に描かれた二面の絵に添えて詠まれた歌である。晴れた田舎と雨の都という対の絵が、そのまま歌の上の句と下の句に対応している。
作者はこれを見て、このように情け深い主君を見捨てて遠方へ行くことなどできないだろう、と記す。この一段は、遠くへ去る者と留まる者との対比を通して、作者自身が主君のもとを離れがたいと思う心を語る形になっている。
初句「あかねさす」は「日」にかかる枕詞で、赤く照り映えるさまから日を導く。第二句「日に向かひても」は、日に向かうの意でありながら、同時に下向先の国名である日向を掛けている。地名を隠し持たせることで、遠く離れていく先を一語で示す。「ても」は、たとえそうであってもの意の逆接で、明るい土地に身を置いてもなお、と続ける。
第三句「思ひ出でよ」は命令形で、歌の中心に願いを直接置く。第四句「都は晴れぬ」は、都は晴れないの意で、絵に描かれた雨と、心の晴れなさとを重ねる。結句「ながめすらむと」の「ながめ」は、物思いにふけって見やる意の「眺め」と、長く降り続く雨の「長雨」との掛詞であり、第四句の「晴れぬ」がその両方に自然にかかる。「らむ」は現在の事態についての推量、末尾の「と」は、思い出せの内容を受ける引用の助詞で、私はそうしているだろうと思い出してほしい、という一続きの文になる。
枕詞、地名の掛詞、「ながめ」の掛詞と、技法は幾重にも用いられているが、いずれも扇に描かれた二枚の絵から離れていない。晴れた日向と雨の都という視覚的な対比を、そのまま言葉の対比に移しかえた作りであり、贈り物と歌が一体になっている点で、八七段の卯杖に添えられた「山とよむ斧の響きを尋ぬればいはひの杖の音にぞありける」と同じ趣向に立つ。
御乳母(めのと):貴人の子を養育する女性
命婦(みゃうぶ):宮中に仕える女官の称
日向(ひうが):今の宮崎県にあたる国名。「日に向かふ」と掛ける
あかねさす:「日」「昼」「紫」などにかかる枕詞
ても:たとえ…であってもという逆接
ながめ:「眺め」と「長雨」との掛詞
らむ:目の前にない事柄を推量する助動詞
と:引用をあらわす格助詞
扇(あふぎ):ここでは餞別として与えられた品
- 作者
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中宮定子
- 出典
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枕草子
- その他の歌
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