かけまくもかしこき神のしるしには
鶴のよはひとなりぬべきかな
- 歌の意味
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口に出して申しあげるのも恐れ多い神のご加護のしるしには、鶴のような長い齢になってしまうにちがいない。
- 鑑賞
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277 御前にて人々とも、また
中宮の御前で女房たちと語らっていた折、作者は、世の中が腹立たしくわずらわしく、片時も生きていられそうにない心地がして、ただどこへでも行ってしまいたいと思うようなときでも、ただの紙のたいそう白く清らかなものやよい筆を手に入れれば、この上なく慰められて、なお生きていけそうな気がします、と申しあげた。中宮は、ずいぶんはかないことで慰むものだこと、とお笑いになった。
その後、作者が心に思い悩むことがあって里に下がっていたころ、中宮からわざわざ使いを立てて上等の紙二十枚を賜り、早く参上せよとの仰せがあった。添えられた手紙には、この紙のことは以前に聞いたものだが、上等ではないので寿命経も書けまい、といった趣旨が記されていた。
中宮は一条天皇の中宮定子である。作者の里居の事情は、心に思うことがあってとのみ記され、詳しくは述べられていない。
時は作者が里に下がっている間、場所は作者の里の家である。
紙さえあれば生きていけると申しあげた言葉を中宮が覚えておられ、その紙を里へ届けさせたことが、この歌が詠まれた直接の契機である。作者は返事としてこの歌を差しあげ、あまりでございましょうか、と申し添えた。
その後、赤衣を着た男が畳を持って来て置いていく。どこからかと問わせても、もう帰ってしまっていて答えがない。御座と呼ぶ立派な畳であったので、作者は中宮の御心遣いかと思いながらも確かめられず、右京の君に手紙で問い合わせて、たいそう隠しておいでのことだと知らされ、思ったとおりだと悟る。
初句「かけまくも」は、口に出して言うのもの意で、下の「かしこき」とともに、神を言いあらわすときの改まった言い方をなす。第二句「かしこき神の」は、恐れ多い神のの意で、賜った紙をもたらした主を、あえて神と言いかえている。中宮への言及を直接には避け、神と呼ぶことで最上の敬意を示す形になっている。
第三句「しるしには」の「しるし」は、神仏の霊験、ご加護のあらわれをいう。第四句「鶴のよはひと」は、千年を生きるという鶴に長寿を託した言い方で、賜った紙が寿命経も書けまいと言われていたことを受け、経を書かずとも紙そのものが命を延ばすのだと切り返している。
結句「なりぬべきかな」の「ぬ」は完了、「べき」は確信をこめた推量で、きっとそうなるにちがいないと言い切り、「かな」が詠嘆を添える。紙があれば生きていけると申しあげた自分の言葉を、みずから神の霊験の話に仕立て直したことになり、はかないことで慰むものだと笑われた冗談を、そのまま感謝の言葉として返した一首である。同じ作者の「もとめてもかかる蓮の露をおきてうき世にまたはかへるものかは」も仏事にまつわる歌であるが、あちらが法会の尊さを説くのに対し、こちらは日常の贈り物を神事の言葉に持ちあげており、対照的な構えを見せる。
かけまくもかしこし:口に出して言うのも恐れ多い。神をいうときの慣用的な言い方
しるし:神仏の霊験。ご加護のあらわれ
よはひ:年齢。寿命
鶴のよはひ:千年を生きるという鶴にたとえた長寿
ぬ:完了をあらわす助動詞
べし:きっと…にちがいない、という確信をこめた推量
かな:詠嘆をあらわす終助詞
寿命経:寿命の延長を祈って書写
読誦する経
御座(ござ):貴人の座所に敷く上等の畳
啓す:皇后
中宮
東宮に申しあげる
- 作者
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清少納言
- 出典
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枕草子
- その他の歌
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