雨月物語 - 上田 秋成
古歌に詠まれてきた、この松山の岸に寄せる浪の景色は昔どおり変わることはあるまいと思うのに、同じように永遠普遍だと思われた君は今、まうますあと潟（形）もなくなられていくことよ。
雨月物語 - 上田 秋成
松山に寄せる波とともに流れ寄ってきた舟がそのままに空しく朽ち果てるように、私もまた都を離れたまま、お前が歌ったように、このまま朽ち終わることになってしまったのか
雨月物語 - 上田 秋成
浜千鳥の足跡（筆跡）は都に行き通じることができるのに、浜千鳥のからだ（私の身）は都から離れた松山で悲しみの声をあげて鳴くばかりなのです。
雨月物語 - 上田 秋成
たとえ君よ、あなたが昔、玉座に着いておられたところで、こんなお姿（死者）になられた以上、それがなんになりましょう。そういう現世の執着を忘れ去って成仏なさいませ。
雨月物語 - 上田 秋成
夫の言葉だけを頼りに待ちつづける、この私の身の情けない哀れさは、いかなる人でもあの人に伝えることはできないだろう。逢い、告げると名のる逢坂山の夕づけ鳥よ、私とともに、待ちかねた秋も暮れてしまうと鳴いておくれ。
雨月物語 - 上田 秋成
それでも、きっと帰ってくると期待するわが心に乗せられひきずられて、よくもまあ、今日まで生きてきてしまったことよ。これが私の命というものなのか。
雨月物語 - 上田 秋成
昔物語の中の真間（まま）の手児奈（てごな）よ。きっと、この今物語の勝四郎の心と同じくらいみんなが恋したにちがいない真間の手児奈よ。
雨月物語 - 上田 秋成
旅人がこの玉川の流れには毒があるということを、忘れて汲み飲んだりしてしまうのではなかろうか、それが心配だ。高野の奥にある玉川の水を
雨月物語 - 上田 秋成
さびしい心をくるしめるように降りこめてくる、この雨よ。三輪が崎の、佐野のあたりは雨をよける家さえ見あたらないというのに。