古今和歌集 - 在原元方
まだ正月にならないうちに、もう春が来てしまった。過ぎ去った一年を、冬が終わったので去年といおうか、それともまだ正月がこないのであるから今年といおうか。
古今和歌集 - 紀貫之
あつい夏のころ知らず知らず袖がぬれながら、すくいあげた水が、寒い水のあいだ凍っていたのを、立春の今日のあたたかい風がとかしているであろうか。
古今和歌集 - よみ人しらず
もう春にはなったが、いったい春霞のたちこめている所はどこにあるだろうか。この吉野の里の吉野山はまだ雪が降っていて、いっこうに春めいてもこない。
古今和歌集 - 藤原高子
雪がまだ降っているのに、もう春が来てしまった。 冬の間じゅう凍っていた鶯の涙は、今はもうとけているであろうか。
古今和歌集 - よみ人しらず
梅の咲いた枝に来てとまっているうぐいすが、春のくるのを待ちのぞんで鳴いているけれども、まだ春らしい様子もなく、雪はちらちら降っている。
古今和歌集 - 紀貫之
霞がたち、木々の芽もふくらむ春になって雪がふるので、まだ花の咲かないこの里にも、春の淡雪が花と散っていることよ。
古今和歌集 - 藤原言直
春になったのに、まだ梅の花が咲かないのは、春の来るのが早すぎたのか、花の咲くのが遅すぎるのかと、聞いて判断しようと思うが、そのうぐいすさえもまだ、鳴かずにいることよ。
古今和歌集 - みぶのただみね
すでに春は来たと人は言うけれども、春を告げるうぐいすの鳴かないうちは、まだ春ではないだろうと思う。