なく声もきこえぬ虫の思ひだに
人の消つにはきゆるものかは
- 歌の意味
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鳴く声も聞こえない虫、すなわち蛍の火でさえ、人が消そうとして消えるものだろうか。まして私の思いは消えはしない。
- 鑑賞
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第一部 蛍
五月雨のころ、兵部卿宮は熱心に玉鬘へ思いを訴え、せめて近くに参ることをお許しいただきたいと申し入れる。源氏は返事をするよう勧め、宰相の君に文面を教えて代筆させた。よい返事が来たのを珍しく思った宮が忍んで訪れると、源氏は妻戸の間に褥を出し、几帳一つ隔てただけの近さに招き入れ、空薫物をたきしめて世話を焼く。その姿は親というより厄介なおせっかい人のようであった。宮が思いのたけを訴える言葉は落ち着いていて色めきすぎず、源氏はおもしろく聞いている。やがて几帳の帷子を一枚はねあげると同時に、夕方から包み隠しておいた多くの蛍をさっと放った。にわかに照らし出されて扇で顔を隠す玉鬘の横顔は美しく、宮は薄物の隙間からその姿を垣間見て心を奪われる。その折に詠まれたのがこの歌である。
「なく声もきこえぬ虫」は蛍のことである。「思ひ」の「ひ」に「火」を掛け、蛍の光を恋の火に重ねる。「人の消つ」は、女房たちがすぐに光を隠してしまったことをさす。声を立てぬ虫の火でさえ人の力で消せはしない、まして声にも出さぬ私の思いが消せるものかという理屈である。源氏が仕組んだ蛍の光が、そのまま宮の恋の火の比喩へと転じるところに、この場面の趣向がある。以後、この宮は蛍兵部卿宮と呼ばれるようになった。
なく声もきこえぬ虫:蛍。声を立てずに光る虫。
思ひ:「ひ」に「火」を掛ける。恋の思いと蛍の火。
だに:…でさえ。
消つ:消す。
ものかは:…であろうか、いやそうではない、という反語。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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