袖の香をよそふるからに橘の
みさへはかなくなりもこそすれ
- 歌の意味
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袖の香を私になぞらえられるというだけで、橘の実のようなこの身までも、はかなく消えてしまいはしないでしょうか。
- 鑑賞
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第一部 胡蝶
源氏に手を取られ、こうした扱いに馴れていなかった玉鬘は、ひどく嫌に思いながらも、おっとりした様子でこの歌を返した。気味悪く思ってうつぶしているさまが、かえって源氏の心をそそり、この日はすこし思いのたけを打ち明けてしまう。玉鬘は震えるほど嫌がるが、源氏は、上手に隠すから何気ないふりをしていなさい、私ほど深い心のある者はいないと言いつのる。まことにおせっかいな親心だと語り手は評する。やがて雨がやみ、月がさし出た夜、女房たちが遠慮して近くに控えていないのを幸いに、源氏は衣ずれの音をごまかして玉鬘のそばに横になる。玉鬘は実の親のもとであればこんな嫌なことはあるまいと悲しみ、涙をこぼすのだった。
「袖の香」は源氏の歌を受け、亡き母をさす。「よそふるからに」はなぞらえるというだけでの意。「橘のみ」は橘の実に「身」を掛け、自分自身をいう。母に見立てられたばかりに、母と同じくはかなく消えてしまうのではないかという恐れであって、母が若くして急死したことを踏まえている。「もこそすれ」は悪い結果を心配する言い方である。求愛を正面から拒むのではなく、身の上の不吉を言うことでかわしているのだが、養父の思いがけない振る舞いにどう応じてよいかわからぬ、その困惑がそのまま歌になっている。源氏が橘に亡き人を見たのに対し、玉鬘はその橘の実に我が身の危うさを見た。
袖の香:袖にたきしめた香。ここでは亡き母夕顔をさす。
よそふ:なぞらえる。比べる。
からに:…というだけで。
み:橘の「実」に「身」を掛ける。
もこそすれ:…したらどうしよう。悪い結果を心配する言い方。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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