あらはれていとど浅くも見ゆるかな
あやめもわかずなかれけるねの
- 歌の意味
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水の上に現れて、いっそう浅く見えることです。物の区別もつかぬまま流されて泣いておられたという、その根、その音は。
- 鑑賞
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第一部 蛍
兵部卿宮の歌への返しである。源氏が、今日こそはお返事をなさいと勧めておいて出て行き、女房たちも、やはりお返事をと申し上げるので、姫君はどうお思いになったのか、この歌を「若々しく」とだけ言い添えて、ほのかにお書きになった。筆跡にもう少し風情があればと、宮は風流好みの心から物足りなくお思いになっただろう。この日は薬玉なども、言いようもなく風情ある作りで、あちこちからたくさん贈られてくる。玉鬘は、長年の苦しい境遇の名残もない今の暮らしに心の余裕も出てきて、同じことなら人を傷つけずにすませたいと思うようになっていた。
「あらはれて」は水面に現れての意である。「浅くも見ゆる」は、水底に隠れていたものが姿を現すと水の浅さが知れる、ということで、宮の思いの浅さをそのまま言い当てている。「あやめもわかず」は菖蒲と、物の道理の見分けがつかない意の「文目」とを掛ける。「なかれ」も「ね」も、宮の歌の語をそのまま受け継いだ掛詞である。宮が用いた語をひとつも余さず使いながら、意味だけを裏返して浅い浅いと押し返す返歌であって、姫君の機知がよく利いている。返事を渋りつづけてきた玉鬘が、ともかくも筆を執ったこと自体、心境の変化を示す一点でもある。
あらはる:水面に現れる。姿を見せる。
いとど:いっそう。ますます。
あやめもわかず:菖蒲と、物の道理の見分けがつかない意の「文目」とを掛ける。
なかれ:「流れ」と「泣かれ」とを掛ける。
ね:菖蒲の「根」と泣き声の「音」とを掛ける。
- 作者
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紫式部
- 出典
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源氏物語
- その他の歌
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