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天の原富士の煙の春の色の
霞になびくあけぼのの空

歌の意味
大空に立つ富士の煙が、春の色をした霞となってたなびいている、明け方の空よ。
鑑賞
巻第一 春歌上 33

詞書「百首歌たてまつりし時」
 ここから霞を主題とする一連が始まる。この歌は富士の噴煙を取り上げ、それが春の霞と一つになって明け方の空にたなびくさまを詠む。詞書の「百首歌たてまつりし時」は正治二年の正治初度百首を指す。
 作者の「前大僧正慈円」は慈円(一一五五〜一二二五)である。関白藤原忠通の子で、良経の叔父にあたる。天台座主を四度務め、歴史書『愚管抄』を著した。
 場面は春の明け方、遠く富士山を望む空である。当時の富士山はなお噴煙を上げていた。
 直接の契機は百首歌の詠進である。
 慈円は『新古今和歌集』に九十二首が入集しており、西行に次いで第二位である。

 初句「天の原」は広々とした大空をいう語で、まず空間の大きさが示される。
 二句から三句にかけて「富士の煙の春の色の」と「の」を重ね、煙から色へ、色から霞へと修飾が連なっていく。同じ助詞を続けることで視線が滑らかに移り、煙と霞の境目が曖昧になる効果を生んでいる。
 四句「霞になびく」で、富士の煙が春の霞へと転じきる。噴煙という季節に関わらないものが、春の景物である霞に取り込まれるという把握である。
 結句「あけぼのの空」は体言止めである。時刻を最後に置くことで、薄明の中に煙と霞が溶け合う情景が定まる。
 次の第三十四首も煙と霞を詠んでおり、二首が並べて配されている。

あまのはら:広々とした大空
けぶり:煙。ここでは富士山の噴煙
なびく:横に長く引く
作者
慈円
出典
新古今和歌集
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