古典和歌stream

朝霞深く見ゆるや煙たつ
室の八島のわたりなるらん

歌の意味
朝霞が深く見えるのは、煙の立つという室の八島のあたりなのだろうか。
鑑賞
巻第一 春歌上 34

詞書「崇徳院に百首歌たてまつりける時」
 前歌に続いて煙と霞を詠む。ただしこちらは富士ではなく、水から煙が立つと伝えられた室の八島を持ち出し、霞の深さの理由を推し量る形をとる。詞書によれば崇徳院に詠進した百首歌の一つで、久安六年に成立した久安百首を指す。
 作者の「藤原清輔朝臣」は藤原清輔(一一〇四〜一一七七)である。藤原顕輔の子で、六条藤家の歌学を受け継いだ。歌学書『袋草紙』『奥義抄』を著し、当代の歌学の中心にあった。
 場面は春の朝、場所は下野国の歌枕である室の八島(現在の栃木県栃木市)である。水面から煙が立つと言い伝えられ、煙の名所として歌に詠まれてきた。
 直接の契機は百首歌の詠進である。

 初句
二句「朝霞深く見ゆるや」の「や」は疑問の係助詞で、結句の「なるらん」の連体形がその結びとなる。深く見えるのはなぜか、という問いを立てて一首が始まる。
 三句「煙たつ」は室の八島に伴う定型の言い方で、この地を指す標識として働く。
 四句
五句「室の八島のわたりなるらん」の「らん」は現在推量の助動詞で、そのあたりなのだろう、と結ぶ。
 霞が深いのは、実は霞ではなく室の八島の煙なのではないか、という推量である。前歌が煙と霞を一つに融け合わせたのに対し、この歌は両者を取り違えるという形で結び付けており、同じ素材の別の扱いになっている。
 実際にその地を見ているのではなく、名高い伝承を手がかりに遠くの景を推し量る点で、歌枕の知識に支えられた作りである。

むろのやしま:下野国の歌枕。現在の栃木県栃木市。水面から煙が立つと伝えられた
わたり:あたり。付近
作者
藤原清輔
出典
新古今和歌集
その他の歌