古典和歌stream

散りぬれば匂ひばかりを梅の花
ありとや袖に春風の吹く

歌の意味
散ってしまったので、香りだけを、梅の花がまだあるとでもいうのか、袖に春風が吹きつけてくる。
鑑賞
巻第一 春歌上 53

詞書「土御門内大臣の家に梅香留袖といふ事をよみ侍りけるに」
 散った後に残る梅の香を詠む。詞書の「梅香留袖」は、梅の香が袖に留まる、の意で、その題によって詠まれた。土御門内大臣は源通親で、第二十五首の源通光、第四十六首の源通具の父にあたる。
 作者の「藤原有家朝臣」は藤原有家(一一五五〜一二一六)である。藤原重家の子で、六条藤家に属し、『新古今和歌集』の撰者の一人となった。
 場面は梅の散ったころ、場所は特定されない。
 直接の契機は「梅香留袖」の題による詠である。

 初句「散りぬれば」の「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形で、「ば」を伴って確定条件を表す。散ってしまったので、の意である。
 二句「匂ひばかりを」は、香りだけを、の意で、花が失われて香だけが残る状態を示す。
 三句
四句「梅の花ありとや」の「や」は疑問の係助詞で、結びは結句の「吹く」の連体形である。まだ花があるとでもいうのか、という反語に近い問いになっている。
 結句「袖に春風の吹く」は、風が袖に香を運んでくるさまである。第四十三首が遠くから届く香を詠んだのに対し、この歌はすでに散った後の香を詠んでおり、花の不在という点でさらに進んでいる。
 花なき後になお香を運ぶ風を、わざとらしいものとして見る視点があり、風に対する軽い抗議のような調子が生じている。

ばかり:〜だけ。限定を表す
にほひ:香り
作者
藤原有家
出典
新古今和歌集
その他の歌