古典和歌stream

照りもせず曇りも果てぬ春の夜の
朧月夜にしくものぞなき

歌の意味
照りきることもなく、曇りきることもない春の夜の朧月夜に及ぶものはない。
鑑賞
巻第一 春歌上 55

詞書「文集嘉陵春夜詩不明不暗朧々月といへることをよみ侍りける」
 ここから朧月を主題とする一連が始まる。この歌は漢詩の一句を題として和歌に詠み直したもので、朧月夜の趣を何ものにも勝るものとして讃える。詞書の「文集」は『白氏文集』を指し、その詩句「不明不暗朧々月」を和歌に移したことを示す。
 作者の大江千里は平安時代前期の歌人である。漢詩の句を題として和歌を詠む句題和歌を多く残した。
 場面は春の夜、場所は特定されない。
 直接の契機は、漢詩の句を題として和歌に詠み直すという試みである。
 「曇りも果てぬ」の句は第四十首の定家の歌にも用いられており、この歌が後代に受け継がれたことを示している。

 初句
二句「照りもせず曇りも果てぬ」は、原詩の「不明不暗」をそのまま和語に移した部分である。二つの否定を並べることで、明るくも暗くもない中間の状態が示される。「果つ」はすっかり〜しきる意で、「ぬ」は打消である。
 三句
四句「春の夜の朧月夜」は原詩の「朧々月」にあたる。ここで題の語が和歌の中心に据えられる。
 結句「しくものぞなき」の「しく」は及ぶ、匹敵する意で、「ぞ」の係り結びによって「なき」の連体形が結びとなる。及ぶものはない、という最上級の言い方である。
 漢詩の句を上の句と下の句に振り分け、最後に和歌独自の評語を加えるという構成であり、句題和歌の作り方がよく表れている。中間の状態そのものを美とする把握は、以後の朧月の歌の基調となった。

しく:及ぶ。匹敵する
はつ:すっかり〜しきる
もんじふ:『白氏文集』のこと
作者
大江千里
出典
新古今和歌集
その他の歌