- 歌の意味
-
袖に吹きつけよ。どうせ旅寝の夢も見られはしないだろう。恋しく思う方角から通ってくる浦風よ。
- 鑑賞
-
巻第十 羈旅歌 980
詞書「和歌所にて男ども旅歌仕うまつりしに」
旅路の夢と袖を詠む一連の一首目である。どうせ旅寝の夢も見られまい、恋しい人のいる方から通ってくる浦風よ、せめて袖に吹けと、旅寝の夜の思いを詠む。詞書によれば、和歌所で男たちが旅の歌を詠進した時の歌である。
作者の「定家朝臣」は藤原定家である。藤原俊成の子で、鎌倉時代初期の歌人である。『新古今和歌集』の撰者の一人である。
場面は海辺の旅寝の夜、場所は浦風の吹く海辺の宿りである。
直接の契機は、和歌所で男たちが旅の歌を詠進した折の詠である。和歌所は、後鳥羽院が『新古今和歌集』の撰集のために設けた役所である。
『源氏物語』須磨巻の光源氏の歌「恋ひわびて泣く音にまがふ浦波は思ふ方より風や吹くらむ」を踏まえ、「思ふ方より」「浦」「風」の語を取っている。
初句「袖に吹け」は、袖に吹きつけよ、の意である。命令形で浦風に呼びかける初句切れである。
二句「さぞな旅寝の」は、どうせ、きっと旅寝の、の意である。「さぞな」は推量を強める語である。
三句「夢も見じ」は、夢も見られまい、の意である。打消推量の「じ」で言い切る三句切れである。本巻の第九百七十六首が旅の夢に妻を見たのに対し、ここでは夢も見られない旅寝が詠まれる。
四句「思ふ方より」は、恋しく思う人のいる方角から、の意である。須磨巻の光源氏の歌の語を取り、都を離れた海辺の旅寝の哀しさを重ねている。
結句「通ふ浦風」は、通ってくる浦風、の意で、体言止めで呼びかけの対象を示す。夢で通うことのできない思いを、恋しい方から通う浦風に託している。前歌までの贈答に続き、ここから旅路の夢と袖を詠む歌が続く。
うらかぜ:浦を吹く風、海辺の風
- 作者
-
藤原定家
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-