いにしへの虎のたぐひに身を投げば
さかとばかりは問はむとぞ思ふ
- 歌の意味
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昔の、飢えた虎に身を投げ与えた人の例にならって私が身を投げたならば、せめて「そうか」とだけでも問いかけてくれるだろうと思うのだ。
- 鑑賞
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巻第八 雑歌上 508
詞書「男侍りける女をせちに懸想し侍りて、男の言ひ遣はしける」
昔、飢えた虎に身を投げ与えた人の例にならって身を投げたならば、せめて「そうか」とだけでも問いかけてくれるだろうと思うと詠む歌である。詞書から、夫のある女をひたすら恋い慕った男が、その女に送った歌とわかる。釈迦の前世である薩埵太子が飢えた虎に身を与えたという捨身の故事を踏まえ、命を捨てるほどの思いを示しても、せめて一言の言葉がほしいという切実な恋心を表している。前の二首の世の中を嘆く歌に続き、本巻を締めくくっている。
巻頭の第四百三十二首が世に経る身の物思いを月に寄せて詠み起こしたのに対し、巻末のこの歌は身を投げる覚悟の思いで閉じられ、ともに「思ふ」の語で巻の始めと終わりが呼応している。
初句「いにしへの」は、昔の、の意である。
二句「虎のたぐひに」は、虎の例に、の意で、飢えた虎に身を投げ与えたという捨身の故事を指している。
三句「身を投げば」は、身を投げたならば、の意で、「ば」は未然形について仮定を表す。
四句「さかとばかりは」は、「そうか」とだけは、の意で、相手からのわずかな言葉をいう。
結句「問はむとぞ思ふ」は、問いかけてくれるだろうと思う、の意で、係助詞「ぞ」を受けて連体形の「思ふ」で結んでいる。巻頭の第四百三十二首の二句「物思ふ」と、「思ふ」の語で呼応している。
けさう:懸想。異性を恋い慕うこと
たぐひ:例。同類
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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世の中をかく言ひ言ひの果て果ては いかにやいかにならむとすらん
- 次の歌
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春秋に思ひ乱れて分きかねつ 時につけつつ移る心は