古典和歌stream

なにせむに結びそめけん岩代の
松は久しきものと知る知る

歌の意味
どうして結び始めたのだろうか。岩代の松は、結んでから久しく待たねばならないものと知りながら。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 742

詞書「ある男の、松を結びてつかはしたりければ」
 岩代の松は久しいものと知りながら、どうして結び始めたのだろうかと詠む歌である。詞書から、ある男が松の枝を結んで贈ってきたので詠んだ歌とわかる。岩代の結び松は、松の枝を結んで旅の無事や再会を祈った習俗で、有間皇子の歌で知られる。松を結んで契りを示した男に、結べば久しく待たされることになるのにと、軽くいなしている。前の二首の住吉の松に続き、松を詠んだ歌である。

 初句「なにせむに」は、どうして、何のために、の意である。
 二句「結びそめけん」は、結び始めたのだろうか、の意で、「けん」は過去の原因を推量する助動詞である。ここで句切れとなる二句切れの歌である。
 三句「岩代の」は、紀伊国の岩代の、の意で、結び松の名所である。
 四句「松は久しき」は、松は久しい、の意で、「松」に「待つ」を響かせ、久しく待つことを思わせる。前の第七百四十首と第七百四十一首の「久しくも」と、松の久しさを共有している。
 結句「ものと知る知る」は、ものと知りながら、の意で、倒置して二句の問いに返っている。

いはしろ:岩代。紀伊国の地名。結び松の名所
むすびまつ:結び松。松の枝を結んで旅の無事や再会を祈る習俗
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
久しくも思ほえねども住吉の 松や二たび生ひかはるらん
次の歌
片岸の松のうきねと忍びしは さればよつひに現れにけり