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独り寝る宿には月の見えざらば
恋しき事の数はまさらじ

歌の意味
独りで寝る家に月が見えなければ、恋しく思うことの数は増えないだろうに。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 794

詞書「万葉集和せる歌」
 独り寝る家に月が見えなければ、恋しく思うことの数も増えないだろうにと詠む歌である。美しい月の光が恋人を思い出させ、独り寝のわびしさをかえって募らせると嘆いている。詞書から、万葉集の歌に唱和して詠んだ歌であることがわかる。
 作者の「したかふ」は源順である。嵯峨源氏の出で、梨壺の五人の一人として後撰和歌集の撰進と万葉集の訓読にあたり、辞書の和名類聚抄を編んだ。三十六歌仙に数えられる。

 初句「独り寝る」は、独りで寝る、の意である。第七百七十七首と第七百七十八首の独り寝を受け、巻の主題の一つを月の歌の中で詠んでいる。
 二句「宿には月の」は、家には月が、の意である。
 三句「見えざらば」は、見えないならば、の意で、「ざら」は打消の助動詞「ず」の未然形、「ば」は仮定を表す。
 四句「恋しき事の」は、恋しく思うことの、の意である。
 結句「数はまさらじ」は、数は増えないだろう、の意で、「じ」は打消の推量を表す。前歌の第七百九十三首が月に見られることを願うのに対し、この歌は月が見えることを恨み、月への思いが対をなしている。

やど:宿。住まい。家
まさる:増す。多くなる
作者
源順
出典
拾遺和歌集
前の歌
月影を我が身にかふる物ならば 思はぬ人もあはれとや見む
次の歌
長月の有明の月のありつつも 君し来まさば我恋ひめやも