山がつの垣ほに生ふるなでしこに
思ひよそへぬ時の間ぞなき
- 歌の意味
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山里に住む者の垣根に生えている撫子に、あなたを思いなぞらえない時はひとときもない。
- 鑑賞
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巻第十三 恋歌三 830
詞書「天暦御時、広幡の御息所久しく参らざりければ、御文つかはしけるに」
山里の垣根に咲く撫子に、あなたを思いなぞらえない時はひとときもないと詠む歌である。詞書から、天暦の御代に、広幡御息所が長く参内しなかったので、帝が手紙に添えて贈った歌とわかる。可憐な撫子に恋しい御息所を重ね、絶えず思い続ける心を伝えている。
作者の「御製」は、詞書の天暦の御時から村上天皇の歌である。醍醐天皇の皇子で、その治世は天暦の治と称された。梨壺に和歌所を置いて後撰和歌集の撰進を命じた。
初句「山がつの」は、山里に住む者の、の意である。
二句「垣ほに生ふる」は、垣根に生えている、の意である。
三句「なでしこに」は、「なでしこ」が花の「撫子」と、撫でいつくしんだ子の意の「撫でし子」を掛ける掛詞である。次歌の第八百三十一首の「とこなつ」と、撫子を共有している。
四句「思ひよそへぬ」は、思いなぞらえない、の意である。第七百八十九首の四句「何によそへて」と「よそふ」の語を共有し、そちらがなぞらえる物を失う嘆きであるのに対し、この歌はいつも撫子になぞらえると詠み、対をなしている。
結句「時の間ぞなき」は、ひとときもない、の意で、係助詞「ぞ」を受けて「なき」と連体形で結んでいる。本巻の第八百十首は、広幡御息所が昔の春を懐かしむ歌で、御息所と帝の歌が本巻で呼応している。
やまがつ:山賤。山里に住む身分の低い者
かきほ:垣穂。垣根
なでしこ:花の「撫子」と、撫でいつくしんだ子の意の「撫でし子」を掛ける
- 作者
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村上天皇
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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夏草の茂みに生ふるまろこすげ まろがまろ寝よ幾夜経ぬらん
- 次の歌
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思ひ知る人に見せばや夜もすがら 我がとこなつにおきゐたる露