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いにし年根こじて植ゑし我が宿の
若木の梅は花咲きにけり

歌の意味
去年、根ごと掘り取って植えた我が家の若木の梅は、花が咲いたことだ。
鑑賞
巻第十六 雑春歌 1008

詞書「題しらず」
 去年根ごと掘り取って移し植えた我が家の若木の梅に、花が咲いたと喜ぶ歌である。自ら植えた若木が花をつけた、素朴な喜びを詠んでいる。
 作者の安倍広庭は、奈良時代の公卿で、右大臣阿倍御主人の子である。中納言に至り、万葉集にも歌を残している。本文の詞書の欄には「題しらす中納言」とあり、「中納言」は作者の官職を記したものとみられる。
 万葉集巻八に、初句を「去年の春」とする類歌が見える。

 初句「いにし年」は、去年、の意である。
 二句「根こじて植ゑし」は、根ごと掘り取って植えた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 三句「我が宿の」は、我が家の、の意で、本巻の第千十二首の三句「我が宿の」と同じ句を共有し、我が家の梅を詠む点も通じている。
 四句「若木の梅は」は、まだ若い梅の木は、の意である。
 結句「花咲きにけり」は、花が咲いたことだ、の意で、「に」は完了、「けり」は詠嘆の助動詞である。

ねこず:根こず。根ごと掘り取る
作者
安倍広庭
出典
拾遺和歌集
前の歌
梅の花雪より先に咲きしかど 見る人まれに雪の降りつつ
次の歌
花の色は飽かず見るとも鶯の ねぐらの枝に手ななふれそも