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郭公通ふ垣根の卯の花の
憂きことあれや君が来まさぬ

歌の意味
ほととぎすが通ってくる垣根の卯の花、その「う」の音のように、何かつらいことがあるのだろうか、あなたはおいでにならない。
鑑賞
巻第十六 雑春歌 1071

詞書「題しらず」
 ほととぎすが通う垣根の卯の花の、その「う」の音のように、何か憂いことがあるのだろうか、あなたはおいでにならないと詠む歌である。初夏の垣根の景を序として、訪れの絶えた人を待つ心を詠んでいる。ここから、ほととぎすや卯の花など夏の景物を詠む歌が続く。
 作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の宮廷歌人で、万葉集を代表する歌人として歌聖と仰がれ、三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌が人麻呂の作として多く収められている。
 万葉集巻十に、初句を「鶯の」とする類歌が見える。

 初句「郭公」は、ほととぎすが、の意で、夏を告げる鳥である。本巻では第千七十三首から第千七十七首まで、ほととぎすを詠む歌が続く。
 二句「通ふ垣根の」は、通ってくる垣根の、の意で、次歌の第千七十二首の二句「咲ける垣根に」と、「垣根」の語を共有している。
 三句「卯の花の」は、卯の花の、の意で、上の三句は同じ音の「う」を重ねて四句の「憂き」を導く序詞である。次歌の第千七十二首の初句「卯の花の」と同じ句である。
 四句「憂きことあれや」は、つらいことがあるのだろうか、の意で、「あれ」は已然形、「や」は疑問を表す。
 結句「君が来まさぬ」は、あなたがおいでにならない、の意で、「来ます」は「来」の尊敬語、「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形である。

うのはな:卯の花。うつぎの花。初夏に白い花を咲かせる
きます:来ます。いらっしゃる
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
紫の色し濃ければ藤の花 松の緑も移ろひにけり
次の歌
卯の花の咲ける垣根に宿りせし 寝ぬに明けぬと驚かれけり