古典和歌stream

染河を渡らん人のいかでかは
色になるてふ事のなからん

歌の意味
染川を渡るような人が、どうして色に染まるということがないだろうか。
鑑賞
巻第十九 雑恋 1234

詞書「題しらず」
 染川を渡るような人が、どうして色に染まらないことがあろうかと詠む歌である。筑紫の染川の名に「染まる」を響かせ、そこを渡る者は色に染まる、すなわち色好みになるのは当然だと、恋に染まる身を軽妙に言いなしている。
 作者の在原業平は、阿保親王の子で、六歌仙、三十六歌仙に数えられる。伊勢物語の主人公とされ、百人一首の「ちはやぶる」の歌で知られる。
 伊勢物語の第六十一段に、筑紫を訪れた男の歌として見える。

 初句「染河を」は、筑前国の染川を、の意で、川の名に「染む」の意を響かせている。
 二句「渡らん人の」は、渡るような人が、の意で、「ん」は婉曲の助動詞である。
 三句「いかでかは」は、どうして、の意で、反語を表し、結句の「らん」と呼応している。
 四句「色になるてふ」は、色に染まるという、の意で、「色」は染め物の色と色恋の意を重ねている。
 結句「事のなからん」は、ことがないだろうか、いや必ずある、の意で、「らん」は推量の助動詞の連体形である。

そめかは:染川。筑前国の川
いろ:色。染め物の色と、色恋の意を重ねる
作者
在原業平
出典
拾遺和歌集
前の歌
ともかくも言ひ放たれよ池水の 深さ浅さを誰か知るべき
次の歌
ちはやぶる賀茂の河辺の藤波は かけて忘るる時のなきかな