久方の雨の降る日をただ独り
山辺にをれば埋もれたりけり
- 歌の意味
-
雨の降る日に、ただ独り山のほとりにいると、気分がふさいで、埋もれてしまったような思いがすることだ。
- 鑑賞
-
巻第十九 雑恋 1252
詞書「紀郎女に贈り侍りける」
雨の降る日にただ独り山のほとりにいると、埋もれてしまったような思いがすると詠む歌である。詞書から、紀郎女に贈った歌とわかる。雨に降りこめられ、人里離れた山辺に独りでいるうっとうしさを訴え、相手に会えない寂しさを伝えている。紀郎女は安貴王の妻で、家持と歌を贈り合った。
作者の「中納言家持」は大伴家持である。大伴旅人の子で、中納言に至った。万葉集の編纂に深くかかわったとされ、三十六歌仙に数えられる。百人一首の「かささぎの」の歌で知られる。
万葉集の巻四に、結句を「いぶせかりけり」とする類歌が見える。
初句「久方の」は、「雨」にかかる枕詞である。
二句「雨の降る日を」は、雨の降る日に、の意である。
三句「ただ独り」は、ただ独りで、の意で、相手のいない寂しさを強めている。
四句「山辺にをれば」は、山のほとりにいると、の意で、「ば」は已然形について条件を表す。
結句「埋もれたりけり」は、埋もれてしまったようだ、の意で、気がふさいで晴れないことをいう。「けり」は気づきの詠嘆を表す。
やまべ:山辺。山のほとり
うもる:埋もる。埋もれる。気がふさぐ
- 作者
-
大伴家持
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
風早み峰の葛葉のともすれば あやかりやすき人の心か
- 次の歌
-
雨降りて庭にたまれる濁り水 誰がすまばかはかげの見ゆべき