古典和歌stream

春の夜は吹き舞ふ風の移り香を
木ごとに梅と思ひけるかな

歌の意味
春の夜は、吹き舞う風が運んでくる移り香のために、どの木もみな梅だと思ってしまったことだ。
鑑賞
巻第一 春歌上 25

詞書「百首歌召しける時、梅の歌とてよませ給うける」
 崇徳院が歌人たちに百首歌を召した際、自らも「梅」を題として詠んだ歌である。春の夜の闇の中、吹き舞う風が梅の香りをあちこちに運ぶので、どの木からも梅の香りがして、木という木がみな梅だと思ってしまったと詠む。見えない夜の梅の香の広がりを、風の動きとともにとらえている。
 作者の「崇徳院御製」は鳥羽天皇の第一皇子の崇徳院である。「御製」は天皇や上皇の詠んだ歌をいう。院政期の歌壇を主導して久安百首を召したが、保元の乱に敗れて讃岐に配流され、その地で没した。
 「木ごとに」は、古今和歌集の紀友則の歌「雪降れば木ごとに花ぞ咲きにけるいづれを梅とわきて折らまし」にも見える言い回しである。

 初句「春の夜は」は、前歌の第二十四首と同じ初句で、春の夜の梅の香を詠む歌を続けている。
 二句「吹き舞ふ風の」は、あちこちに吹き回る風をいう。
 三句「移り香を」の「移り香」は、梅の香りが風に移ったものをいう。
 四句「木ごとに梅と」は、どの木をも梅と、の意である。「木」と「毎」を合わせると「梅」の字になる文字の遊びを含む。
 結句「思ひけるかな」の「ける」は気づきを表す助動詞「けり」の連体形、「かな」は詠嘆である。

うつりが:物に移って残る香り
作者
崇徳院
出典
千載和歌集
前の歌
春の夜は軒端の梅を漏る月の 光も薫る心地こそすれ
次の歌
梅が香はおのが垣根をあくがれて 真屋のあたりに隙求むなり