乾く間もなき墨染の袂かな
朽ちなば何を形見にもせん
- 歌の意味
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涙で乾く間もない、喪服の墨染の袂であることだ。この袂が朽ちてしまったら、いったい何を亡き院の形見にすればよいのだろう。
- 鑑賞
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巻第九 哀傷歌 571
詞書「後三条院隠れさせ給うて諒闇の頃、よみ侍りける」
後三条院が崩御し、天下が喪に服していた頃に詠んだ歌である。涙で乾く間もない墨染の袂であることだ、朽ちてしまったら何を形見にすればよいのだろう、と詠む。喪服を亡き院の形見として大切に思いながら、涙に濡れどおしで朽ちてしまいそうだと嘆き、悲しみの深さを表している。後三条院は延久五年(1073)に崩御した。
作者の「藤原顕綱朝臣」は藤原兼経の子で、母は弁乳母である。讃岐守などを務め、讃岐入道と呼ばれた。
本巻の第五百四十八首も、形見として着る喪服が涙で朽ち果てるだろうと詠み、本歌と同じ趣向である。
なお本文の初句は「かわくまも」とあり、読み仮名の行の「かわくよも」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。
初句「乾く間も」は、涙で乾く間も、の意である。
二句「なき墨染の」の「墨染」は墨で染めたような黒い色で、喪服をいう。次歌の第五百七十二首、本巻の第五百八十一首も墨染の衣を詠む。
三句「袂かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、ここで句切れとなる。
四句「朽ちなば」の「な」は完了の助動詞「ぬ」の未然形で、「ば」が付いて、朽ちてしまったならば、の仮定条件となる。本巻の第五百四十八首の「朽ち果てぬべし」と通じる。
結句「何を形見にもせん」の「せん」は推量の助動詞「む」の連体形で、何を形見にすればよいのか、の意である。喪服そのものを形見とみる。
りやうあん:天皇が父母の喪に服する期間、またその間の服喪
すみぞめ:墨で染めたような黒い色、また喪服
かたみ:亡き人をしのぶよすがとなる物
- 作者
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藤原顕綱
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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花と見し人はほどなく散りにけり 我が身も風を待つと知らなん
- 次の歌
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墨染の袂にかかるねを見れば あやめも知らぬ涙なりけり