いかにせん思ひを人に染めながら
色に出でじと忍ぶ心を
- 歌の意味
-
どうしたらよいのだろう。思いをあの人に深く染めつけていながら、それを色には出すまいと忍んでいるこの心を。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 646
詞書「題しらず」
思いを人に染めつけていながら、色には出すまいと忍ぶこの心をどうしたらよいか、と詠む。「染め」「色」と染色の縁語を重ね、心の内では相手に深く染まっていながら表には出すまいと耐える、忍ぶ恋の苦しさを表している。
作者の「延久三親王」は輔仁親王である。後三条天皇の第三皇子で、延久年間に生まれた三の宮であることからこの名で呼ばれた。皇位継承の有力な候補とされながら、即位はかなわなかった。花園左大臣源有仁の父である。
本巻では、初句を「いかにせむ」とする歌が、第六百六十八首、第六百九十一首、第七百三首と見られる。また四句の「色に出でじ」は第六百八十三首の二句と同じ句で、第六百六十四首の四句「色には出でじ」とも共通する。
初句「いかにせん」は、どうしたらよいだろう、の意で、ここで句切れとなり、結句と倒置の関係にある。第六百六十八首、第六百九十一首、第七百三首も同じ初句で始まる。
二句「思ひを人に」は、恋の思いを相手に、の意である。
三句「染めながら」の「染め」は、思いを相手に深く染めつける意で、四句の「色」と縁語になる。「ながら」は逆接で、染めていながら、の意である。
四句「色に出でじと」の「色に出づ」は思いが表に現れる意、「じ」は打消し意志の助動詞で、表には出すまいと、の意である。第六百八十三首の二句と同じ句である。
結句「忍ぶ心を」は、耐え忍んでいる心を、の意で、初句の「いかにせん」へ返る。
そむ:色を染める。ここでは思いを深く寄せる
いづ:表に現れる
しのぶ:恋心を人に知られないように隠す
- 作者
-
輔仁親王
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
藻屑火の磯間を分くる漁り舟 ほのかなりしに思ひ初めてき
- 次の歌
-
一目見し人は誰ともしら雲の 上の空なる恋もするかな