藻屑火の磯間を分くる漁り舟
ほのかなりしに思ひ初めてき
- 歌の意味
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藻屑を焚く火をともして磯の間を分けて進む漁り舟の火のように、ほのかに見えただけのあなたを、思い初めてしまった。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 645
詞書「女に遣はしける」
女のもとに贈った歌である。藻屑を焚く火をともして磯の間を分けてゆく漁り舟のように、ほのかに見ただけで思い始めてしまった、と詠む。上の三句は、夜の磯にかすかに見える漁り舟の火を描いて「ほのか」を導く序詞であり、わずかに垣間見ただけの相手に恋をした心を、闇に揺れる小さな火に重ねている。
作者の「藤原長能」は藤原倫寧の子である。「蜻蛉日記」の作者である藤原道綱母の兄弟にあたる。花山院の歌壇で活躍し、能因法師の歌の師としても知られる。
本巻の第六百八十七首の「思ひそめてし心こそ」とも、恋の初めを「思ひそむ」と詠む点で共通する。
初句「藻屑火の」の「藻屑火」は、海辺で藻屑を焚く火、または漁り舟でともす火をいう。
二句「磯間を分くる」は、磯の岩の間を分けて進む、の意である。
三句「漁り舟」は、夜に火をともして魚を捕る舟である。上三句が序詞となり、四句の「ほのか」を導く。
四句「ほのかなりしに」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、ほのかに見えただけであったのに、の意である。漁り舟の火のかすかさと、相手をわずかに見たことを重ねる。
結句「思ひ初めてき」の「初め」は動詞「初む」の連用形、「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「き」は過去の助動詞で、思い初めてしまった、の意である。第六百八十七首の二句「思ひそめてし」と共通する。
もくづび:海辺で藻屑を焚く火
いそま:磯の岩と岩の間
いさりぶね:夜に火をともして魚を捕る舟
おもひそむ:恋しく思い始める
- 作者
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藤原長能
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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思ふよりいつしか濡るるたもとかな 涙ぞ恋のしるべなりける
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いかにせん思ひを人に染めながら 色に出でじと忍ぶ心を