思ふよりいつしか濡るるたもとかな
涙ぞ恋のしるべなりける
- 歌の意味
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人を思い始めるやいなや、早くも濡れる袂であることよ。涙こそが恋の道案内であったのだ。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 644
詞書「権中納言俊忠中将に侍りける時、歌合し侍りけるに初めの恋の心を詠める」
藤原俊忠がまだ中将であった時に催した歌合で、「初めの恋」の題により詠んだ歌である。思い始めるとすぐに袂が濡れることだ、涙こそ恋の道しるべであった、と詠む。恋の始まりを、心より先に流れ出る涙によって知るという趣向である。
作者の「後二条関白家筑前」は関白藤原師通の家に仕えた女房である。経歴の詳細は多く伝わらない。
本巻の第六百四十二首が心に「道しるべ」を求めたのに対し、本歌は涙を恋の「しるべ」とする。また第六百六十二首の「言はぬに濡るるたもとかな」とは三句を同じくし、涙に恋心を知る趣も共通する。第七百二首も、恋に入るとすぐに袖が濡れると詠む。
初句「思ふより」の「より」は、…するやいなや、の意で、恋い思うとすぐに、の意である。第七百二首の四句「入るより」と同じ用法である。
二句「いつしか濡るる」の「いつしか」は早くも、の意で、思い始めたばかりなのに早くも濡れる、の意である。
三句「たもとかな」の「たもと」は袖、「かな」は詠嘆の終助詞で、ここで句切れとなる。第六百六十二首の三句と同じ句である。
四句「涙ぞ恋の」の「ぞ」は強意の係助詞で、結句の「ける」と連体形で結ぶ。
結句「しるべなりける」の「しるべ」は道案内、「ける」は気づきの詠嘆「けり」の連体形で、四句の「ぞ」を受けて結ぶ。第六百四十二首の結句「道しるべせよ」と響き合う。
しるべ:道案内、手引き
たもと:袖、袂
- 作者
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筑前
- 出典
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千載和歌集
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わりなしや思ふ心の色ならば これぞそれとも言はましものを
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藻屑火の磯間を分くる漁り舟 ほのかなりしに思ひ初めてき