思へども言はでしのぶの摺り衣
心の内に乱れぬるかな
- 歌の意味
-
思っていても言わずに忍んでいるので、信夫の摺り衣の乱れ模様のように、心の内で思い乱れてしまうことだ。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 663
詞書は前の歌に続き「題しらず」
思っていても言わずに忍ぶので、信夫の摺り衣の模様のように心の内で乱れてしまう、と詠む。陸奥の信夫で産した、乱れた模様を摺りつけた布に寄せ、表に出せない恋のために心の中ばかりが乱れるさまを表している。
作者の「前右京権大夫頼政」は源頼政である。兵庫頭源仲政の子で、右京権大夫を務めた武将、歌人である。のちに以仁王を奉じて平家打倒の兵を挙げ、宇治で敗死した。
次歌の第六百六十四首も「しのぶもぢずり」を詠み、乱れ模様の摺り衣に忍ぶ恋の心の乱れを託す二首が並んでいる。いずれも「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」(古今和歌集、河原左大臣)を踏まえる。
初句「思へども」は、恋い思っていても、の意である。第六百五十一首の初句と同じ句である。
二句「言はでしのぶの」の「しのぶ」は、恋心を忍ぶ意と、陸奥国の信夫を掛ける。
三句「摺り衣」は、草木の汁で模様を摺りつけた衣で、ここでは信夫の乱れ模様の摺り衣をいう。
四句「心の内に」は、表には出さず、心の中で、の意である。
結句「乱れぬるかな」の「乱れ」は、摺り衣の乱れ模様と、心が思い乱れる意を重ね、「摺り衣」の縁語となる。「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形、「かな」は詠嘆である。
しのぶ:恋心を忍ぶ意と、陸奥国の信夫を掛ける
すりごろも:草木の汁で模様を摺りつけた衣
みだる:思い乱れる
- 作者
-
源頼政
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
恋しとも言はぬに濡るるたもとかな 心を知るは涙なりけり
- 次の歌
-
陸奥のしのぶもぢずり忍びつつ 色には出でじ乱れもぞする