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おきてゆく涙のかかる草枕
露しげしとや人のあやめん

歌の意味
起きて旅立ってゆく時に、別れの涙のかかった草枕を、露がひどく置いていると、人が不審に思うだろうか。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 823

詞書「旅の恋といへる心を詠み侍りける」
 「旅の恋」という題で詠んだ歌である。起きて旅立つ時の涙のかかる草枕を、露が多いと人は怪しむだろうか、と詠む。旅寝の枕を濡らす涙は、恋しい人を思って流したものであるが、それを野の露が多く置いたためと人が見るか、それとも涙と見抜いて怪しむかと案じる歌で、旅にあって忍ぶ恋を表している。
 作者は「よみ人しらず」で、名は伝わらない。
 前歌の小笹の露に濡れる袖を受けて、本歌は草枕に置く露と涙とを重ね、露に寄せて恋の涙を詠む歌が続いている。本巻の第七百九十一首も旅の衣の涙を露のせいにできないと詠み、旅の恋の涙と露とを結びつける点で本歌と対応する。

 初句「おきてゆく」の「おき」は、寝床から「起き」る意に、露が「置き」の意を掛け、四句の「露」の縁語となる。
 二句「涙のかかる」は、別れの涙がかかる、の意である。
 三句「草枕」は旅寝のことで、題の「旅」を示す。
 四句「露しげしとや」の「しげし」は数多い意で、「や」は疑問の係助詞である。結句の「ん」と係り結びをなす。露が多いと、の意である。前歌の三句「しげければ」と同じく露の多さを詠む。
 結句「人のあやめん」の「あやむ」は不審に思う、とがめる意、「ん」は推量の助動詞「む」の連体形で「や」の結びとなる。

おく:寝床から「起く」意に、露が「置く」意を掛ける
くさまくら:旅寝
あやむ:不審に思う、とがめる
作者
よみ人しらず
出典
千載和歌集
前の歌
分け来つる小笹が露のしげければ 逢ふ道にさへ濡るる袖かな
次の歌
涙をも忍ぶる頃の我が袖に あやなく月の宿りぬるかな