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恋ひそめし心の色の何なれば
思ひ返すに返らざるらん

歌の意味
恋し始めた心の色は、いったい何色だというので、思い返そうとしても元に返らないのだろう。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 892

詞書「恋歌とて詠める」
 恋の歌として詠んだ歌である。恋し始めた心の色は何色だというので、思い返しても返らないのだろう、と詠む。恋を「染め」た心を染め物の色にたとえ、染め返そうとしても色が戻らないように、思い直そうとしても恋する前の心には戻れないと、どうにもならない恋心を表している。「染め」「色」「返す」と染め物にかかわる語を重ねた技巧の歌である。
 作者の「太皇太后宮小侍従」は石清水八幡宮別当紀光清の娘である。太皇太后藤原多子らに仕え、待つ宵の恋を詠んだ歌から「待宵の小侍従」と呼ばれた。

 初句「恋ひそめし」の「そめ」は、恋し「初め」の意と、色を「染め」の意とを掛ける。「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 二句「心の色の」の「心の色」は心のありさまを染め物の色にたとえた語で、初句の「染め」の縁語である。
 三句「何なれば」はどういうわけで、何色だというので、の意で、結句の「らん」と呼応する。
 四句「思ひ返すに」は思い直そうとしても、の意で、「返す」は色を染め返す意を重ね、「染め」「色」の縁語となる。「に」は逆接の接続助詞である。
 結句「返らざるらん」の「ざる」は打消の助動詞、「らん」は現在の原因推量の助動詞で、どうして元に返らないのだろう、の意である。四句の「返す」と同じ語を重ねて結ぶ。

そむ:恋し「初む」の意と、色を「染む」の意とを掛ける
おもひかへす:思い直す。色を染め返す意を重ねる
作者
小侍従
出典
千載和歌集
前の歌
今さらに恋しといふも頼まれず これも心の変はると思へば
次の歌
伊勢島や一志の浦の海人だにも かづかぬ袖は濡るるものかは