今さらに恋しといふも頼まれず
これも心の変はると思へば
- 歌の意味
-
今になって恋しいと言ってきても、あてにはできない。これもまた心が変わったのだと思うと。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 891
詞書「初疎後思恋といへる心を詠める」
「初めは疎く後に思ふ恋」、すなわち初めは冷淡だった相手が後になって思いを寄せてくる恋の題で詠んだ歌である。今さら恋しいと言われても頼みにはできない、これも心が変わったのだと思うと、と詠む。初めは冷たかった相手が今になって恋しいと言ってきても、それは心が変わったためであり、変わる心ならばまたいつか変わるだろうと、相手の言葉を信じきれない心を表している。題の趣を逆手にとった機知のある一首である。
作者の「二条院讃岐」は源頼政の娘である。二条天皇に仕え、のちに後鳥羽天皇の中宮宜秋門院に仕えた。小倉百人一首にも歌が採られている。
本巻の第八百八十一首は「変はる心を見るよりも」と相手の心変わりを嘆き、本歌は心が変わって恋しいと言われても頼めないと詠み、ともに心の「変はる」ことを詠んでいる。
初句「今さらに」は今になって、今ごろになって、の意で、題の「後に思ふ」に当たる。
二句「恋しといふも」の「も」は逆接の含みを持ち、恋しいと言っても、の意である。
三句「頼まれず」の「れ」は可能の助動詞「る」の未然形、「ず」は打消の助動詞で、頼みにできない、の意である。ここで句切れとなる。
四句「これも心の」の「これ」は今さら恋しいと言ってきたことを指し、「も」によって、初めの冷淡さと同じくこれも、の意を添える。本巻の第八百八十一首の二句「変はる心を」と同じく心の変わることを詠む。
結句「変はると思へば」の「ば」は順接の確定条件で、心が変わったのだと思うので、の意である。三句の「頼まれず」の理由を示して結ぶ。
たのむ:あてにする、信頼する
- 作者
-
二条院讃岐
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
住み馴れし佐野の中川瀬絶えして 流れ変はるは涙なりけり
- 次の歌
-
恋ひそめし心の色の何なれば 思ひ返すに返らざるらん