古典和歌stream

今よりは更けゆくまでに月は見じ
そのこととなく涙落ちけり

歌の意味
これからは夜が更けていくまで月を見ることはするまい。これといった理由もなく涙がこぼれてしまったから。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 994

詞書「月の歌十首詠み侍りける時、詠める」
 月の歌を十首詠んだ時の歌である。これからは夜更けまで月を見ることはするまい、これといったわけもなく涙が落ちたことだ、と詠む。夜が更けるまで月を見ていると、理由もわからぬまま涙がこぼれてしまったので、もう遅くまで月を見るのはよそうと思う心を詠み、月がもたらす言いようのない悲しみを表している。
 作者の「藤原清輔朝臣」は藤原顕輔の子である。六条藤家の歌学を大成し、『袋草紙』『奥義抄』などの歌学書を著した。小倉百人一首にも歌が採られている。
 同じ時に月の歌十首を詠んだ一連の最後の歌である。本巻の第千四首と結句「涙落ちけり」を共有し、どちらも月を見て落ちる涙を詠んでいる。

 初句「今よりは」は、これからは、の意である。
 二句「更けゆくまでに」は、夜が更けていくまで、の意である。
 三句「月は見じ」の「じ」は打消しの意志の助動詞で、月は見るまい、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「そのこととなく」は、これといった理由もなく、の意で、月を見ることによる言いようのない悲しみを表す。
 結句「涙落ちけり」の「けり」は気づきの詠嘆で、涙がこぼれてしまったことだ、の意である。本巻の第千四首の結句と同じ句である。

ふけゆく:夜が更けていく
作者
藤原清輔
出典
千載和歌集
前の歌
さびしさにあはれもいとどまさりけり ひとりぞ月は見るべかりける
次の歌
もろともに見し人いかになりにけん 月は昔に変はらざりけり