古典和歌stream

数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さに
あるにもあらず消ゆる帚木

歌の意味
数にも入らない賤しい伏屋に生えているという名のつらさに、あるかないかもわからないまま消えてしまう帚木なのだ。
鑑賞
第一部 帚木

 源氏の「帚木の」の歌を受けて、空蝉が小君に託して返したのがこの歌である。身を隠したことを詫びるでもなく、自分の身分の低さを理由に挙げて、消えるほかない存在なのだと答えている。源氏はこの返歌を得てもなお思いを断てず、空蝉への執着はこの後も続いていく。帚木巻はこの贈答をもって閉じられる。

 「伏屋」は園原の地名であると同時に、粗末な家の意でもあり、地名と身分の低さとが一語で結ばれている。「あるにもあらず」は、あるとも言えない状態でという意で、源氏の歌の帚木の性質をそのまま自分に引き受けている。拒みながらも歌としては完全に応じており、拒絶の理由を相手のせいにせず自分の身分に置いている点に、空蝉という人物の一貫した態度が表れている。

数ならぬ:人数にも入らない、取るに足りない。
伏屋:園原の地名。粗末な家の意を掛ける。
あるにもあらず:あるとも言えない状態で。
消ゆる帚木:近づくと消える帚木。ここでは自分自身。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌