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空蝉の羽におく露の木がくれて
忍び忍びに濡るる袖かな

歌の意味
蝉の羽におく露が木の陰に隠れて見えないように、人目を忍んで、こっそりと濡れているわが袖であることよ。
鑑賞
第一部 空蝉

 小君が持ち帰った源氏の歌を読んだ空蝉は、自分の振る舞いが源氏を深く傷つけたことを知る。夫のある身で、しかも受領の妻という身分の低さを思えば、応じることはできないと分かっていながら、若く輝かしい源氏への思いを断ち切ることもできない。返歌を送ることもできないまま、空蝉が人知れず書きつけたのがこの歌である。この一首をもって空蝉巻は閉じられ、二人の関係は夕顔巻の末尾、伊予への下向の場面へと持ち越されていく。

 源氏の歌の「空蝉」をそのまま受け取り、蝉の羽におく露という縁のある景へ展開している。「木がくれて」は木の陰に隠れての意で、露が人目につかないさまと、自分が思いを隠していることとを重ねる。「忍び忍びに」は繰り返しによって、こらえ続ける状態そのものを表している。「露」は涙を含み、袖が濡れるという古歌以来の言い方で泣いていることを示す。源氏に返すのではなく自分のために書きつけた独詠であり、拒み通すという決意と、抑えきれない思いとが同時に置かれた一首である。

空蝉の羽:蝉の薄い羽。空蝉の名を掛ける。
おく露:置いている露。涙を含む。
木がくれて:木の陰に隠れて。
忍び忍びに:人目を忍んで、こっそりと。
濡るる袖:涙に濡れる袖。泣くことを表す。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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