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枕結ふ今宵ばかりの露けさを
深山の苔に比べざらなむ

歌の意味
旅の枕を結ぶ今宵だけの涙がちな思いを、深山にこもる者の苔の衣の涙とは、どうか比べないでほしい。
鑑賞
第一部 若紫

 源氏の「初草の」の歌を受けて、尼君が返したのがこの歌である。旅の一夜の感傷にすぎないものと源氏の言葉を受け流し、孫娘を託すつもりのないことを穏やかに伝えている。源氏はこの返しの落ち着きぶりに、かえって尼君の教養の深さを感じ取る。この後も源氏は文を送り続けるが、尼君の態度は変わらない。

 「枕結ふ」は旅先で草を結んで枕とすることで、旅寝を表す。相手の歌の「旅寝」「露」をそのまま受け取り、贈答歌として言葉を返している。「深山の苔」は山にこもる出家者の粗末な衣で、こちらの涙は日常のものだと述べることで、一夜かぎりの感傷との差を示す。角を立てずに断るという、尼君の物腰がそのまま表れた一首である。

枕結ふ:草を結んで旅の枕とする。旅寝をいう。
露けさ:涙がちであること。
深山:人里離れた奥山。
苔:苔の衣。出家者の粗末な衣。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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