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世語りに人や伝へむたぐひなく
憂き身を覚めぬ夢になしても

歌の意味
世間の語り草として人が語り伝えるだろうか。この上なくつらいわが身を、覚めない夢ということにしたとしても。
鑑賞
第一部 若紫

 源氏の歌を受けて、藤壺が返したのがこの歌である。逢瀬の喜びには一切触れず、この出来事が後の世に噂として伝わることへの恐れだけを述べている。帝の妃という立場にある者として、露見すれば身の破滅であることを誰よりも自覚している。この後、藤壺は懐妊の事実に苦しみ、源氏との対面を厳しく避けるようになる。

 「世語り」は世間の語り草、噂のことである。「覚めぬ夢」は源氏の歌の「夢」を受け、覚めない夢にしてしまえば現実ではなくなるという願いを込めた語である。しかし直後に「なしても」と続けることで、そう思い込もうとしても噂は消えないという諦めが示される。源氏が個人の感情を詠んだのに対し、藤壺は社会的な帰結を詠んでおり、二人の置かれた立場の違いが贈答の中で明確に対比されている。

世語り:世間の語り草、噂。
たぐひなく:比べるものがないほど。
憂き身:つらい身の上。
覚めぬ夢:覚めることのない夢。
なしても:そういうことにしても。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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