夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬに
いぶせさそふる宵の雨かな
- 歌の意味
-
夕霧の晴れる様子もまだ見えないのに、気持ちをふさがせる宵の雨であることよ。
- 鑑賞
-
第一部 末摘花
一夜を過ごした後、源氏からは後朝の文もなかなか届かない。荒れた邸では女房たちが気をもみ、姫君の身の上を案じている。折しも雨が降り出し、夜になっても晴れる気配がない。この歌は、その様子を見かねた大輔命婦が源氏のもとへ送り、訪れを促したものである。しかし源氏は動かず、代わりに姫君自身が歌を送ることになる。
「夕霧」は夕暮れに立ちこめる霧で、はっきりしない源氏の心をも重ねている。「いぶせさ」は気持ちが晴れずふさぐことで、天候と心情とを同じ語の流れで結んでいる。霧が晴れないところへ雨まで加わるという重ね方で、事態が好転しないことを述べており、直接に催促の言葉を用いずに用向きを伝える書き方になっている。仲立ちの立場にある命婦らしい、控えめな詠みぶりである。
夕霧:夕暮れに立ちこめる霧。
けしき:様子、そぶり。
いぶせさ:気が晴れず、心がふさぐこと。
そふる:添える、いっそう加える。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- 前の歌
-
言はぬをも言ふにまさると知りながら おしこめたるは苦しかりけり
- 次の歌
-
晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ 同じ心に眺めせずとも