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唐人の袖振ることは遠けれど
立ち居につけてあはれとは見き

歌の意味
唐の人が袖を振ったという故事は遠いことだけれど、あなたの立ち居振る舞いにつけては、しみじみと感じ入って見た。
鑑賞
第一部 紅葉賀

 試楽の翌日に届いた源氏の歌に対し、藤壺が返したのがこの歌である。返事を書かないわけにもいかず、しかし心を許した言葉を書くわけにもいかない立場で、舞の見事さだけを認める形にとどめている。源氏はこの短い返しを得て喜び、藤壺への思いをいっそう強くする。やがて藤壺は皇子を出産し、二人の秘密は物語の根幹となっていく。

 「唐人の袖振る」は、舞楽が唐から伝わったことを踏まえた言い方で、青海波という異国伝来の舞に結びつけている。相手の歌の「袖うち振りし」をそのまま受け取り、贈答歌の作法どおりに言葉を返している。しかし「遠けれど」と距離を置き、心についてではなく「立ち居」すなわち舞いぶりについて感心したと述べることで、私的な意味を巧みに回避している。藤壺の立場の苦しさがそのまま歌の技巧になっている一首である。

唐人:唐(中国)の人。舞楽の由来を指す。
遠けれど:遠い昔のことだけれど。
立ち居:立ち居振る舞い。ここでは舞の姿。
あはれ:しみじみと心を動かされること。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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