- 歌の意味
- あの方になぞらえて見ても心は慰まず、かえって涙がちになるばかりの撫子の花であることよ。
- 鑑賞
-
第一部 紅葉賀
四月、若宮が宮中へ参内する。帝は皇子の顔立ちが源氏に生き写しであることを喜び、源氏を呼んで並べて眺める。何も知らない帝の言葉に、源氏も藤壺も内心冷や汗を流す思いであった。その後、源氏は撫子の花に若宮をなぞらえて、この歌を藤壺へ送る。藤壺は捨て置くこともできず、短い返しを書き送る。
「よそへつつ」はなぞらえての意で、若宮を撫子に、また藤壺その人に重ねている。「撫子」は幼子をたとえる語として古くから用いられ、「撫づ」の音から愛しむ気持ちを含む。「露けさ」は涙がちであることで、慰めを求めて眺めた花がかえって涙を誘うという逆転が置かれている。父と名乗ることのできない立場の苦しさが、花を見るという一つの行為に凝縮されている。
よそふ:なぞらえる、たとえる。
慰まで:慰められないで。
露けさ:涙がちであること。
撫子:幼子のたとえ。
- 作者
- 紫式部
- 出典
- 源氏物語
- その他の歌