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見し人の雨となりにし雲居さへ
いとど時雨にかき暮らすころ

歌の意味
親しんだ人が雨となってしまった空までが、いっそう時雨に暗く閉ざされているこのごろだ。
鑑賞
第一部 葵

 三位中将の「雨となり」の歌を受けて、源氏が返したのがこの歌である。そのけしきが浅からぬものであることは中将の目にもはっきりと見え、日ごろはさほどでもないと見えた源氏の心が、実は葵の上を重んじていたのだと悟らされる。中将はいっそう妹を惜しむ気持ちを深くする。この後、源氏は枯れた前栽から撫子を折らせ、大宮のもとへ贈ることになる。

 「見し人」は親しく見知った人、すなわち葵の上を指す。「雨となりにし」は相手の歌の語をそのまま受け継ぎ、贈答歌の作法を守っている。「雲居」は空のことで、これも先の自身の歌から続く語である。「かき暮らす」は空が一面に暗くなることと、悲しみで心が閉ざされることの両方を含む。相手の問いに答えるのではなく、同じ景をより暗く塗り重ねる形で応じており、慰めを受けつける状態にないことがそのまま示されている。

見し人:親しく見知った人。ここでは葵の上。
雨となる:亡き人が雨となるという故事による。
雲居:空。
かき暮らす:一面に暗くなる。悲しみに閉ざされる意も含む。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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