秋霧に立ちおくれぬと聞きしより
しぐるる空もいかがとぞ思ふ
- 歌の意味
-
秋霧の中で先立たれなさったと聞いてからは、時雨れる空をご覧になるお心はいかばかりかと思っております。
- 鑑賞
-
第一部 葵
源氏の文を受けて、朝顔の姫君がほのかな墨つきで返したのがこの歌である。今は返事をせずにいるわけにもいかない折だと女房たちも申し上げ、姫君自身もそう思われたので、短く一首だけを書き送る。源氏はこの返しに、つれない態度を保ちながら折々の情には応じるという、この人らしい心づかいを感じ取る。そして、紫の上をこのようには育てまいと思う。
「秋霧」は秋の霧で、葵の上を失った時期を示す。「立ちおくれぬ」は先立たれたの意で、「立つ」が霧の縁語として働いている。「しぐるる空」は時雨の降る空のことで、源氏の歌にはない語だが、この場面で繰り返し用いられてきた景を引き継いでいる。弔いの言葉として過不足なく、しかも相手の恋の訴えには一切応じないという絶妙な距離の取り方が、この歌の要である。
秋霧:秋に立つ霧。
立ちおくる:先立たれる。「立つ」は霧の縁語。
しぐる:時雨が降る。
いかが:どのように、いかばかり。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-