- 歌の意味
- ただでさえ秋の別れは悲しいのに、鳴き声を添えないでほしい。野辺の松虫よ。
- 鑑賞
-
第一部 賢木
源氏の「暁の別れは」の歌を受けて、御息所が返したのがこの歌である。冷たい風が吹き、松虫が声をからして鳴いているという、その場の景をそのまま歌に取り込んでいる。二人は悔やまれることばかりを抱えたまま、明けていく空に気まずくなって別れる。残された御息所も、心を強く保つことができず、名残に沈んで物思いにふける。
「おほかたの」は一般に、ただでさえの意で、秋の別れが悲しいものとされてきた通念を指す。「鳴く音な添へそ」は、その悲しみにさらに鳴き声を加えるなという禁止の言い方である。「松虫」は「待つ」を響かせる語でもあり、待ち続けてきた歳月をそこに重ねて読むこともできる。自らの感情を述べず、虫に呼びかける形だけで悲しみを示している点に、この人の抑制が表れている。
おほかた:一般に、ただでさえ。
鳴く音:鳴き声。
な添へそ:添えないでくれ。
松虫:秋に鳴く虫。「待つ」を響かせる。
- 作者
- 紫式部
- 出典
- 源氏物語
- その他の歌