- 歌の意味
- 自分の心から、あれこれと袖を濡らすことよ。夜が明けたと知らせる声を聞くにつけても。
- 鑑賞
-
第一部 賢木
朧月夜は尚侍となって宮中で華やかに過ごしていたが、源氏との忍びの通いは以前と変わらず続いていた。五壇の御修法で帝が慎んでおられる隙をうかがい、源氏はかつての細殿の局へ忍び入る。まもなく明ける気配の中、宿直の者が寅一つと申す声が聞こえ、そのときに朧月夜が詠んだのがこの歌である。源氏はこれに返歌をし、落ち着かないまま出ていく。
「心から」は自分の心が原因での意で、他人のせいにしない言い方である。「かたがた」はあれこれと、いく通りにもの意で、逢瀬の喜びと別れの悲しみ、そして許されぬ恋の恐れなど、複数の理由が重なることを示す。「明くと教ふる声」は宿直の時刻を告げる声で、その場の音をそのまま歌に取り込んでいる。はかなげな詠みぶりの中に、自らの立場への自覚がにじんでいる。
心から:自分の心が原因で。
かたがた:あれこれと、いく通りにも。
明く:夜が明ける。
教ふる声:時刻を告げる宿直の声。
- 作者
- 紫式部
- 出典
- 源氏物語
- その他の歌