古典和歌stream

月のすむ雲居をかけて慕ふとも
この世の闇になほや惑はむ

歌の意味
月の澄む雲の上を心にかけてお慕いしても、この世の闇になお迷い続けるのだろうか。
鑑賞
第一部 賢木

 十二月十日過ぎ、藤壺が主催した法華八講の結願の日、宮は自ら出家することを仏に申し上げ、人々は驚愕する。横川の僧都によって髪が下ろされ、宮の内は泣き声で満ちた。人が静まった後に御前に参った源氏が、悲しみをこらえながら命婦を通じて申し上げたのがこの歌である。藤壺はこれに返歌をし、源氏は胸苦しいまま退出する。

 「月のすむ雲居」は月の澄んで輝く空のことで、出家して仏道に入った藤壺の境地をたとえている。「かけて慕ふ」は心にかけて慕うの意である。「この世の闇」は煩悩に迷う現世のことで、仏教語の「無明」を踏まえている。相手が高い所へ去っていくのに対し、自分は闇に残されるという上下の対比で構成されており、葵巻末尾の立后の場面と同じ発想が、出家の場面で繰り返されている。

月のすむ:月が澄んで輝く。
雲居:雲の上、空。
かけて:心にかけて。
この世の闇:煩悩に迷う現世。
惑ふ:迷う。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌