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ありし世のなごりだになき浦島に
立ち寄る波のめづらしきかな

歌の意味
昔のなごりさえない浦島に、立ち寄ってくれる波が珍しく思われることよ。
鑑賞
第一部 賢木

 源氏の「ながめかる」の歌を受けて、藤壺が返したのがこの歌である。奥深い所ではなく、多くを仏に譲った御座所であったから、その声もほのかに聞こえてくる。源氏は忍びながらも涙をほろほろとこぼし、世を思い澄ました尼君たちの目もあるので、言葉少なに退出する。老いた女房たちは、成長した源氏の姿を涙とともに讃え合う。

 「ありし世」は故院の在世中を指す。「なごりだになき」は、その面影さえ残っていないという意である。「浦島」は相手の歌の「松が浦島」を受けており、贈答歌として語を確かに引き継いでいる。「立ち寄る波」は訪れてくれる源氏をたとえたもので、荒れ果てた岸辺に波が寄せるという景に、久しぶりの来訪を重ねている。感謝を述べながら、なお距離を保った返しになっている。

ありし世:昔、故院の在世中。
なごり:面影、痕跡。
浦島:海辺の島。相手の歌を受ける。
立ち寄る波:訪れる人。ここでは源氏。
めづらし:珍しい、ありがたい。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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